後悔しない事業承継セミナー<第8回/全8回>後継者と承継後のビジョン

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長坂 道広(ながさか・みちひろ)
(株)ネクストナビ取締役/(株)日本M&Aセンター事業承継エグゼクティブアドバイザー/(株)青山財産ネットワークス取締役

事業承継に約30年間携わっている、「事業承継のプロ」。創業時の日本M&Aセンターに入社し、M&A仲介に長い間携わったが、M&Aだけでなく関係者が喜べるあらゆる承継手法を提供できるよう、日本M&Aセンターと総合財産コンサルティンググループである青山財産ネットワークスの協力により、「事業承継ナビゲーター」(現:ネクストナビ)を設立、初代代表取締役副社長に就任。現在、事業承継に悩む現役の経営者向けに幅広くコンサルティングを行っている。

 2023年2月16日、株式会社ネクストナビと東京海上日動火災保険株式会社は共催で、企業経営者を対象とした「後悔しない事業承継セミナー」をオンラインで開催した。
 今回のセミナーは事業承継に30年以上携わってきた「事業承継のプロ」である長坂道広氏(〔株〕ネクストナビ取締役・〔株〕青山財産ネットワークス取締役)が講師を務めた。
 ネクストクラブONLINEではその模様を全8回に分けてレポートする。本記事は第8回目、最終回である。

【全8回の目次】
第1回:事業承継を始めるにあたって大切なこと
第2回:事業の将来ビジョンから後継者選択のポイント
第3回:後継者の選択~社員承継のポイント
第4回:後継者の選択~親族承継のポイント
第5回:後継者の選択~第三者承継のポイント
第6回:後継者の選択番外編~TPMの特徴と効果
第7回:自社株の価値と税金
第8回:後継者と承継後のビジョン

 承継後の自身の生活についてはどうなるのか。具体的に想像できる人は少ないと長坂氏は言う。

 承継後の変化としては、まず肩書が変わる。以前は「代表取締役社長」とあったが、承継後は無くなる。あっても「会長」又は「顧問」だ。

 そして経営の関与については承継後は親族承継の場合は引き続き関与するだろうが、第3者承継(М&A)の場合は引継期間中のみ関与したら引退だ。

 一方で家族と過ごす時間や自由に使える時間は大幅に増加する。収入についてはこれまで高額な役員報酬があったが、承継後は減額若しくは無くなる。そのため資産運用による収入が大事となる。

 自社株の扱いについては第3者承継(М&A)の場合は現金資産に変わり、親族承継の場合は所有者が変わる。そして、財産承継への関心は「自社株の相続」から「財産全般の相続」に移っていく。

 事業承継をする前には、こうした承継後の生活についてもイメージしておくことは大切であると長坂氏は言う。

 実際、承継後の元経営者の人は、どうやって収入を得ているのか。同族承継であれば、その会社から引き続き収入を得ているケースも多いが、以前より減る場合も少なくない。そこで資産管理会社を設立して不動産を購入し、家賃収入を得ながら、それを家族の皆が給与としてもらう、こういう形が一つの典型的なパターンだと長坂氏は語る。

 そして、承継後も安心して暮らしていくためには、まず、自身の財産の現状を「ミエル化」することが肝心だ。ミエル化の方法として、長坂氏は今後20年~30年間のお金の収支をシミュレーションしたキャッシュフロー表と相続税を考慮した個人のバランスシート(BS)を作成することを提案した。BSには将来発生するであろう相続税の支払を負債に入れておくことを忘れてはならない。

 バランスシートを事業承継直後に作る。こうした承継後の概要だけでも事前に知ることで事業承継を行う際の安心に繋がるはずだと長坂氏は言う。

 現在経営している会社が中心となって家族がまとまっているというケースが実は意外と多いと長坂氏は言う。

 どういうことか。例えばМ&Aで会社を譲渡したら、会社は当然なくなる。会社そのものが家族の共通の話題だった場合、それがなくなってしまうということで家族がバラバラになってしまうケースもあるそうだ。

 そこで、長坂氏は、家族で共通の理念を持って一族の一体感を強めるとともに、財産を何世代にもわたって承継できるようにすることが重要と語る。

 そのための例として、資産管理会社を作ることを提案した。会社創業時の想いや理念、資産が築かれた背景をまとめ、整理し、代々伝えていくことは重要である。資産管理会社を設立すれば、年1回株主総会を開催するので、その時に家族が集まる口実をつくることができる。また、資産管理会社から家族に給与を払うことも可能だ。そして地元のお祭りなどに資産管理会社を通して、これまで通り寄付して社会貢献活動もできる。こうした運営方法について家族で話し合うことで家族の一体感は醸成される。

 多くの場合、事業承継は家族の人生に影響する。長坂氏は「検討にあたっては、承継後の生活も考えた上で家族と話し合い決めていくことが大切」とセミナーを締めくくった。